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大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)3890号 判決

一 原告が本件実用新案権を有すること及び本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が請求原因2記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

二1 成立に争いのない甲第一号証(本件公報)によれば、本件考案の構成要件は次のとおり分説するのが相当である。

(イ) 鴨居と廻り縁との間隔寸法に見合う相対的摺動可能な鞘体と芯体とからなり、

(ロ) 鞘体及び芯体の一端取付部を廻り縁の下面及び鴨居の上面のみに接当せしめ、該取付部をそれぞれ貫通して廻り縁及び鴨居に鞘体及び芯体のほぼ長手方向からねじ釘等の止着具を刺着してなるものであつて、

(ハ) 少なくとも前記廻り縁の下面に固着される一方の取付部が、該取付部の左右幅方向に水平面部と傾斜面部とを備え、

(ニ) 水平面部は廻り縁の下面に接当し、かつ該下面に垂直して該水平面部を貫通する止着具挿入用取付孔を備え、

(ホ) 傾斜面部は廻り縁の下面に対して前後奥端方向に上昇する傾斜平面を備え、かつ該傾斜平面に直交して廻り縁の下面に傾斜して該傾斜面部を貫通する止着具挿入用取付孔を備えてなり、

(ヘ) 前記水平面部の取付孔を介して止着具を廻り縁の下面に垂直に刺着するとともに、前記傾斜面部の取付孔を介して止着具を廻り縁の下面に傾斜して刺着するよう構成したことを特徴とする空気調和機の取付金具。

2 前掲甲第一号証によれば、本件考案は、壁掛け式空気調和機を日本式の住居や部屋の壁面に、鴨居と廻り縁との間隔寸法に左右されることなく、簡単かつ確実強固に取り付けられるようにするとともに、右壁面の美観を損わず、空気調和機の薄型化による特徴を発揮させうるようにすることを目的としたものであり、次の作用効果を奏することにより、従来技術の欠陥を克服して、右目的を達成したものであると認められる。

(一) 吊り板方式のように、吊り板を廻り縁から鎖で吊り、その吊り板上に空気調和機を載置したり、取付板方式のように、廻り縁と鴨居との間へその側面から取付板を釘止めし、同取付板に空気調和機を掛止めたりしないので、取付工数がかさまず、日本式の住居や部屋における美観を損わず、空気調和機の最近の薄型化による特徴を発揮させることができる。

(二) 鴨居12と廻り縁13との間隔寸法にあわせて鞘体2と芯体3とを摺動できるため、鴨居12と廻り縁13とのさまざまな間隔寸法に対し、汎用性、互換性を有する。

(三) 本件公報第6図に図示する実公昭四七―四〇八二六号考案においては、廻り縁への取付部を段付折曲状としているのに対し、本件考案においては、鞘体2及び芯体3の一端取付部7、8を廻り縁13の下面及び鴨居12の上面のみに接当せしめ、該取付部をそれぞれ貫通して廻り縁13及び鴨居12に鞘体2及び芯体3のほぼ長手方向からねじ釘等の止着具を14、14´を刺着してなるので、廻り縁13及び鴨居12の太細の如何にかかわらず、取付部を適合できる。

(四) 鞘体2と芯体3の伸長方向に両取付部7、8が廻り縁13と鴨居12に圧接され、かつ、止着具14、14´が同様の伸長方向に刺着されること、殊に本件公報第4図及び第5図に図示するように廻り縁13を天井材26に圧接していることから、空気調和機の重量により作用されるモーメントによつて取付部7とともに廻り縁13が天井材26より脱落する危険はない。

(五) 少なくとも廻り縁13の下面に固着される一方の取付部7が、該取付部の左右幅方向に水平面部9と傾斜面部10とを備えているので、廻り縁13に対して水平面部9と傾斜面部10とを選択し、又はその双方により止着具14を刺着することができる。

特に廻り縁13は建築様式等の相違によつて本件公報第4図の鎖線に示すように極めて細いもの27があり、この場合は水平面部9により止着具14を廻り縁に刺着することは不可能であり、傾斜面部10によつてのみ止着具14を刺着することができる。

しかも傾斜面部10を貫通する取付孔16は傾斜平面25に直交しているので、止着具14が廻り縁13の方形断面に対しほぼ対角線方向に刺着され、比較的大径の止着具14を使用しても廻り縁13の割れを可及的に防止できる。

さらに、水平面部9と傾斜面部10との双方によつて取付部7を廻り縁13に固着する場合にも、例えば水平面部9の取付孔15を介しては比較的小径の止着具14を刺着し、傾斜面部10の取付孔16を介しては比較的大径の止着具14を刺着し、これにより取付部7を廻り縁13に極めて強力に固着することができる。すなわち、止着具14として大径のものを使用するときは、これを刺着するためのドライバー等の工具も大型のものとなり、この場合に止着具14を廻り縁13の下面に直交して刺着させるとき該ドライバー等が鞘体2に衝当して作業を不能ならしめる。これに対し、本件考案では、傾斜面部10の取付孔16に挿入された止着具14がその軸線の延長を鞘体2から可及的に離隔するので、大型のドライバー等でも鞘体2に衝当して作業に支障をきたすことがない。

(六) 鞘体2と芯体3の双方の取付部7、8がそれぞれ廻り縁13及び鴨居12に止着具14、14´によつて固着されているので、本件公報第6図に図示する実公昭四七―四〇八二六号考案のように空気調和機の反覆振動により取付金具が鴨居から脱落する危険はない。

(七) 水平面部9、9´においては止着具挿入用取付孔15、15´がこれと直交し、傾斜面部10、10´、11、11´においては傾斜平面25と止着具挿入用取付孔16、16´、17、17´が直交するので、止着具14、14´を各取付孔に刺着するに際し、止着具14、14´を水平面部9、9´又は傾斜平面25と垂直の方向に挿入しさえすれば、容易に止着具14、14´をして水平面部9、9´又は傾斜面部10、10´11、11´をそれぞれ貫通すべき正しい方向に刺着せしめることができるとともに、止着具14、14´の頭部が各取付孔の周縁部の平面に正常に密着するので、取付部7、8をそれぞれ廻り縁13、鴨居12に対し確実強固に固着することができる。

三 被告が昭和五九年八月からイ号物件を業として製造、販売していること及びイ号物件の構成が請求原因4記載のとおり分説されることは当事者間に争いがない。

四 本件考案とイ号物件の対比

1 イ号物件が「鴨居と廻り縁との間隔寸法に見合う相対的摺動可能な鞘体と芯体とから成」ること、すなわち本件考案の構成要件(イ)を充足すること並びにイ号物件が本件考案の構成要件(ハ)及び(ニ)にいう水平面部を備えていることは当事者間に争いがない。

2 本件考案の構成要件(ハ)及び(ホ)によれば、本件考案においては、二つある取付部のうち少なくとも廻り縁の下面に固着される一方の取付部が傾斜面部を備えていること並びに右傾斜面部は廻り縁の下面に対して前後奥端方向に上昇する傾斜平面及び右傾斜平面と直交する止着具挿入用取付孔を備えていることを構成要件要素とする。そして、右傾斜平面は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲には、「廻り縁の下面に対して前後奥端方向に上昇する傾斜平面」と記載されており、これを文言解釈すれば、廻り縁の下面に対し水平でも垂直でもない一定の角度を有する平面でなければならない。

そこでイ号物件をみるに、イ号物件の図面であることに争いのない別紙イ号図面及びイ号物件の構成(2)によれば、イ号物件において廻り縁の下面に固着されうる芯体上端取付部は、廻り縁の下面に対して水平な垂片6、同じく側片7、これらに設けられたビス孔9、廻り縁の下面に対して垂直な芯体1及びその表面に設けられた長孔8とからなるから、ここに存する平面は廻り縁の下面に対し水平又は垂直なものに限られ、前記の意味の傾斜平面が存しないことは明らかである。

したがつて、イ号物件には、傾斜平面も、これと直交する止着具挿入用取付孔も、そしてこれらを前提とする傾斜面部も存しない。

3 原告は、イ号物件における芯体1の長孔8及び垂片6のビス孔9は、本件考案にいう傾斜面部と全く同一の作用効果を生じ置換可能性を有すること及び右置換が容易であることを理由に均等の主張をする。

しかしながら、イ号物件においては、芯体1の長孔8から垂片6のビス孔9へビス5を刺着しようとする場合、ビス5を長孔8に挿入すべき角度が分かりにくいこと及び長孔8と垂片6のビス孔9の間に管部が存在しないことから、ビス5を刺着するのが容易といえないし、ビス5の頭部が長孔8の周縁部の一部に斜めに当接するだけで充分に密着しないため、取付部を廻り縁3に確実強固に固着しうるとはいい難いのである。

してみると、イ号物件の芯体1の長孔8及び側片7のビス孔9は本件考案の作用効果(七)を奏することができず、イ号物件においては、空気調和機を簡単かつ確実強固に取り付けるという本件考案の目的が充分に達成されているとはいい難いのであつて、原告の均等の主張は理由がない。

4 原告は、イ号物件が傾斜平面を欠くとしても、傾斜平面は止着具挿入用取付孔に止着具を取り付け易くする機能を有するにすぎず、本件考案の作用効果からみて比較的重要性の少ない事項を省略したものであることを理由に、不完全利用の主張をする。

そもそも発明や考案の各構成要件要素の間に軽重の差を設けることができるか否かということ自体問題の存するところであるが、本件考案にいう傾斜平面は、既にみたように、空気調和機を簡単かつ確実強固に取り付けるという本件考案の目的の達成に直接奉仕するものであり、これを重要性の少ない事項であるなどということは到底できないから、原告の不完全利用の主張は理由がない。

5 したがつて、その余の対比をするまでもなく、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属しない。

五 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求はいずれも理由がないのでこれを棄却する。

〔編註その一〕本件における実用新案権は左のとおりである。

考案の名称 空気調和機の取付金具

出願日   昭和五〇年六月五日

公告日   昭和五九年四月三日

登録日   昭和五九年一二月一四日

登録番号  第一五七八三四七号

〔編註その二〕本件考案の実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。

「鴨居と廻り縁との間隔寸法に見合う相対的摺動可能な鞘体と芯体とから成り、鞘体及び芯体の一端取付部を廻り縁の下面及び鴨居の上面のみに接当せしめ、該取付部を夫々貫通して廻り縁及び鴨居に鞘体及び芯体の略長手方向からねじ釘等の止着具を刺着して成るものであつて、少なくとも前記廻り縁の下面に固着される一方の取付部が、該取付部の左右幅方向に水平面部と傾斜面部とを備え、水平面部は廻り縁の下面に接当し且つ該下面に垂直して該水平面部を貫通する止着具挿入用取付孔を備え、傾斜面部は廻り縁の下面に対して前後奥端方向に上昇する傾斜平面を備え且つ該傾斜平面に直交して廻り縁の下面に傾斜して該傾斜面部を貫通する止着具挿入用取付孔を備えて成り、前記水平面部の取付孔を介して止着具を廻り縁の下面に垂直に刺着すると共に、前記傾斜面部の取付孔を介して止着具を廻り縁の下面に傾斜して刺着するよう構成したことを特徴とする空気調和機の取付金具。」

〔編註その三〕本件におけるイ号物件の構成は左のとおりである。

(1) 別紙物件目録記載の図面に示す空気調和機の取付金具であつて、断面コ型の芯体1(第1図)と、この芯体1が摺動自在にはめこまれる同じく断面コ型の鞘体2(第2図)とよりなり、例えば第3図に示すように、芯体1の上端の取付部を廻り縁3の下面に、また鞘体2の下端の取付部を鴨居4の上面にそれぞれビス5で固定することによつて取り付けられる。

(2) 芯体1の上端の取付部は、芯体1の表面を下方に垂直に折り曲げて形成した垂片6と、芯体1の両側面を外側に水平に折り曲げて形成した一対の側片7と、芯体1の表面に設けた一対の長孔8とよりなり、垂片6及び側片7にはそれぞれビス孔9が設けてある。

(3) 鞘体2の下端の取付部は、鞘体2の下端を押圧して形成した凹部10と、鞘体2の両側辺を削除して表面部のみとし、これを上向きに起こして形成した斜辺11とよりなり、凹部10及び斜辺11にはそれぞれビス孔9が設けてある。

(4) 芯体1の表面には長手方向に一定の間隔をおいて多数のねじ穴12が設けてある。また、鞘体2の表面には同様にスリツト孔13が設けてある。このスリツト孔13を通してねじ穴12にビス5をねじ込むことによつて芯体1と鞘体2は相互に固定される。

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